技術的にいえば腐食とは「化学的作用による摩耗」です。非鉄金属においては腐食という形で現われます。鉄系金属の場合は通常錆の(酸化)の形で現われますが、エッチングやしみになることもあります。腐食の原因としては下記が考えられます。
1.酸性・・・鉄及び非鉄金属。
2.アルカリ性・・・非鉄金属。
3.水、大気、熱処理及びメッキなどからもたらされる塩。
4.異種金属接触。
5.細菌。
6.木、紙及び運搬箱。
7.エア・ホースの使用。
8.工作機械あるいは工作物の「嵌め合わせ」部品。
9.不適当な油性切削油。
10.不適当な水溶性切削油の管理。
11.殺菌剤、添加剤あるいは汚染物質。
錆や腐食を防ぐには金属の表面が化学的に反応するのを防がなければなりません。 亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどの金属は両性です。すなわちこれらは酸にもアルカリにも攻撃されます。これらの金属で作業する際に腐食を避けるのがとても難しいのはこのためです。一方、酸はたいていの鉄及び非鉄金属を浸し溶かします。アルカリは鉄系金属上に保護層を形成し、その結果錆を防ぎます。金属加工液がアルカリ寄りに維持されるのはこのためで、それは機械と加工される部品の錆を防ぐためです。
また油性の塩素化・硫化切削油は工作機械と加工される部品にしみと腐食を起こすことがあります。
これはこれらの油性加工油の一部が大気中や工作機械の水溶性切削油の水分によって分解して酸ができるからです。そのため錆が生じます。
細菌もまた、水溶性切削油中で成長して酸と塩を作ることがあります。これらの酸と塩は腐食性なので工作機械や部品が茶色に変色します。硫酸還元細菌Desulfovibrio desulfuricanの作るガス(硫化水素)は水溶性切削油を黒く変色させ、機械と部品に黒いしみを作ります。タンク及び機械全体を適当なクリーナ一で定期的に清掃し、適切なリンスを施し、そして清浄な水溶性加工油を用いれば細菌による腐食の防止に役立ちます。
メッキ室や石炭、オイルあるいはガスの燃焼によって亜硫酸ガスがかなり出ているところでは空気中の酸性蒸気が高濃度になっていることがあります。こうした酸性大気も腐食と錆の原因になります。このような条件下では切削油濃度を細かく管理することが必要であり、作業と作業の聞に水置換タイプの防錆油で工作機械と完成部品に使用することが必要かもしれません。
海辺に近い地域では特に大気そのものが塩を多く含んでいることがあります。空気中の塩は鉄及び非鉄金属の両方をひどく腐食することがあります。この場合も適正な切削油濃度を維持し、部品箱を適当な紙またはプラスチック・フィルムで覆い、水置換タイプの防錆油を用いることにより腐食を防止又は軽減することが可能です。
錆は鉄と酸素と水の化合物です。通常、湿度が30%以下に保たれている場合は錆が生じる可能性はあまりありません。しかし、湿度が上がるにつれて水分が金属表面に結露するために錆が生じやすくなります。32.2℃の空気は21.1℃の空気の2倍の水分を含むことができます。ですから、もし部屋が日中暑くて夜にひどく寒くなると、気温が露点を通過して露が部品の上に生じ、鏑を起こす可能性が非常に高くなります。結露による錆を防ぐ最善の方法は防錆油や防錆グリースを使うことです。
腐食は通電作用によっても起こります。2つの異種金属(例えば鉄と銅)を対にすると電流が流れます。特殊な添加で予防しないかぎり、この電流が腐食を起こします。例えば、大きな航空機用アルミニウムの合金が鋳鉄の機械ベットの上で何日もかけて加工される場合にありえます。特別な切削油を用いないかぎりアルミニウムの腐食が起こる可能性があります。
水中の鉱物による塩は鉄や非鉄金属の腐食を起こす可能性があります。塩は酸とアルカリの反応生成物であり、水に溶けると様々な金属を侵します。切削油の希釈に使う水が純粋であればあるほど塩による腐食は起こりにくくなります。切削油のタンクは蒸留器のような作用をすること、そして補充液を加えれば加えるばど水に含まれる塩が切削油中に堆積し、腐食性が強〈なることに注意してください。二一般論として、水溶性切削油に非イオン化水を使用することをお勧めします。
熱処理の塩及びメッキの塩や酸が機械加工や研磨前の部品に付着しているとひどい腐食が生じる可能性があります。部品を切削油に入れる前にこれらの塩と酸を完全に洗い流してください。
特殊な処理をしないかぎり紙と木は酸性(pHが7.0未満)であり、容器や、仕切りなどとして使った場合には切削油で濡れた部品が接触すると錆を起こす可能性があります。
特に生木はよくありません。安全策として、部品を重ねる前に水置換タイプの防錆油を塗っておくべきです。木製の運搬箱や木製の仕切り板を使うときは特にそうするべきです。
運搬用のバスケットや箱には亜鉛メッキされたものがあります。濡れた鉄製の部品を運ぶのにこれらを使うと金種加工のタイプによっては(特に亜鉛メッキを浸す可能性のある液は)異種金属接触腐食を起こします。
一般的に言って、水溶性切削油に接触する場所では亜鉛メッキ鋼を使わないほうが賢明です。
機械加工や研削の後、部品の常れを吹き飛ばすために工アーダスターを使う場合があります。圧縮空気中に水分があると、防錆カのある切削油か吹き飛ばされてその後にエアー・ラインから水分が付着して錆を生じます。一般的に、通常錆は滑らかな表面よりも粗い
表面の上で速く生じます。
運搬箱の中に積み重ねた部品はよく錆びます。
箱が非常に深い場合は特にそうです。底の空気は(通気がよくない)湿度がほとんど100%になっており、そのために部品上の切削油が十分に乾燥しません。さらに、部品同士の面が合うような積み重ね方は避けてください。プラスチックまたはプラスチック被覆の金属でできた開放的な仕切りで分けてください。そうすれば切削油が速く乾きますし、金属同士の接触も防げます。
切削油で濡れた金属部品同士が接触するとしみや錆が生じます。部品の嵌め合わせ部分あるいは接触部分の問に切削油濃度の差があるとガルバニ電池を形成して腐食を起こします。新しい切削油を金属イオンを含む水と混合した場合、最初のうちはそれほど有害でないかも知れませんが、その切削油を長く使っているうちに水に含まれる金属が堆積し、細菌が成長します。これら2つの汚染源は時間が経つにつれて「嵌め合わせ腐食」の可能性を増加します。
機械の中の「嵌め合わせ」部品、例えば固定具や旋盤の心押し台などは外してみると黒くしみになったり錆びたりしているものです。
普通、3つの原因が考えられます。第1に、切削油が嵌め合わせ部品の間に入って細菌が培えることがあります。そうなると細菌の放出
する酸が(亜硫酸ガスによって)部品を黒く変色させたり、錆びさせたりします。第2に、もし空気から十分に断絶されている場合、部品同士の聞に酸素がなく外側には酸素があるためにガルバニ電池が形成され、腐食が起こります。第3に、金属部品上に堆積した金属塩
が腐食を起こします。3つのうちのどの場合でも、解決法は組み合わせる前に防錆グリースを嵌め合わせ部品の表面に塗布することです。それにより、この種の「嵌め合わせ」腐食を発生させる水分が除かれます。言うまでもないことですが、切削油濃度が薄くなり過ぎれば防錆力が弱くなって錆が生しますので切削油の濃度を常に維持するようにしてください。
また、切削油中の防錆添加剤には時間が経つと効果がなくなってしまうものもありますので、そのときは切削油を交換して下さい。
鋳鉄及び類似の金属については特記すべきことがあります。鋳鉄は非常に不均一であり、グラファイト片(炭素)を含むので内部にガルバニ電池を生して非常に速く腐食します。さらに、グラファイトは水よりもオイルに濡れやすいのです。一般に、含油ソリュブルタイプやエマルジョンタイプは鋳鉄の機械加工に使うべきではありません。その理由は鋳鉄中のグラファイトが水溶性切削油中の油分を浸出するために切削油の実効濃度が急速に低下し、その結果工作物や切り屑か錆びるからです。鋳鉄に対して含油ソリュブルタイプやエマルジョンタイプを使わなければならない場合はできるだけタンクから切り屑を除去し、高濃度(最低10%)で運転し、仕事始めに濃度を点検することをお勧めします。適正な切削濃度を維持し、良質の水を使い、きれいに清掃することで細菌を抑制し、不適切、不安定な油性切削油によって水溶性切削油が汚染されるのを防ぐことで腐食は最小限に防止できます。
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