非鉄金属の切削油剤について
ホーム ] 会社案内 ] 製品案内 ] 金属加工油の話 ] サンプル依頼 ]

 

 

 

 
非鉄金属の切削加工油剤について
 
 
ここでは、非鉄金属の代表例としてアルミニウム合金、マグネシウム合金、および銅合金を取り上げ、簡単に解説します。

アルミニウム合金について

一口に言えば、アルミニウム合金は工具寿命から見た被削性は非常に良いが、軟らかいので溶着を生じやすい材料です。したがって問題の多くは溶着に起因し、加工面のむしれによる精度や粗さ不良に関する問題を生じやすくなることです。工具摩耗に起因する不具合は比較的少ないようです。
油剤選定では、加工性能面と変色について注意が必要です。
  1. 加工性能面
    水溶性のエマルションタイプを適用することが望ましいと思われます。特に加工性能を重視するときはエマルションを選定すべきと考えます。
    作業性等の二次性能を重視してエマルション以外を適用するケースも見られるようになりましたが、この場合は、加工条件や材質を十分に調査して溶着による問題を生じる可能性が小さいと判断される場合に適用可能となります。その場合は油剤の濃度管理に細心の注意を配る必要があります。また、チャージ直後の切削性能の不具合(潤滑性不足による不具合)を生じることもあるので注意を要します。

  2. 変色アルミニウムはイオン化傾向が水素よりも大きな金属でありますので水の存在下にイオン化して水素ガスを発生させます。

    2Al + 6HO → Al(OH) + 3H↑ + E kcal ・・・ (1)

    アルミニウム合金の腐食は、上記反応によってアルミニウムが溶出することによって生じ、その反応は
    (1)防食剤によって抑制されますが、
    (2)アルカリや陰イオンの存在によって促進されます

    ただし、後述の腐食形態によって防食剤や陰イオンの影響は異なることが報告されております。

      アルミニウム合金の腐食形態
    1. 変色・・・表面が褐色〜黒色に変色する、広い面積の変色で侵食(孔食)はありません、水が主要因でアルカリ性物質は変色を促進します。
    2. 孔食・・・小さく深い侵食で表面は孔食となり、場合によっては孔食同士が連結して巨大化します、白色の粉(俗に白さび)を生成することもあります、Cl,SO2−,重金属イオン等の腐食性物質が主要因です。
    3. エロージョン・・・小さく深い侵食で孔食と同様巨大化する場合があります、高速液体の機械的作用によります。
表面変色
アルミニウム材の表面変色は溶出を伴う腐食(孔食)とは異なり、表面層で生じる現象でウォーターステインと呼ばれています。このウォーターステインとはアルミニウムが水分と接触することにより、アルミニウム表面にアルミナ水和物の薄膜(1〜2μm)が生成し表面光沢の減少あるいは褐色〜黒色に着色する現象です。表面の着色は、材料中の不純物(Fe,Siなど)の影響あるいは水和物被膜中に金属アルミニウムの微粒子が存在するためと言われています。また、この水和物被膜は通常水だけでも徐々に進行しますが、アルカリの存在によって促進されます。水溶性切削油剤による変色はアルカリの影響が大きく、チャージ直後のクーラントのpHが高い時期に生じることが多いようです。ウォーターステインとアルミニウムとの間には、通常緻密な酸化アルミニウムの層が形成されているのでアルミニウム内部への侵食(孔食)はないとされています。

孔食
孔食は劣化が進んでクーラントの防食性が低下した時期に生じることが多いようです。孔食はクーラントの劣化(さび止め性の低下、腐敗)やクーラント中の陰イオン(塩化物イオン、硫酸イオンなど)の蓄積によってクーラントの防食性が低下した場合などに発生します。チャージ直後のクーラント中には防食成分が十分に存在しますので、この時期に孔食を生じることはほとんどありません。

腐食防止策
上記のように変色と孔食では原因が異なることがあるので対策方法も別 に考える必要があります。 変色対策はアルミ変色を生じにくい油剤を適用しなければなりません。ただし、pHのみを考慮してpHの低い油剤を用いると、長期間使用されるクーラントでは、孔食の問題を生じやすい結果 になることがあります(pHの低い油剤は耐腐敗性、耐劣化性が乏しくさび止め性が低下しやすい傾向があります)。 一方、孔食対策としては以下のことが考えられます。
  • クーラント濃度・・・クーラントには防食成分が含まれており、この防食成分がアルミ表面に吸着し、上記(1)の反応を防止しています。したがって、クーラントの防食性が十分に発揮される濃度で使用することが必要です
  • 耐腐敗性、耐劣化性に優れた油剤の適用・・・クーラントの耐腐敗性や耐劣化性が乏しい油剤はクーラントの防錆力の低下が大きくなります。クーラントの防錆力が低下すると上記(1)の反応が進みやすくなります。
  • 塩素系極圧剤を含有しない油剤・・・塩素系極圧剤は使用経時で分解し塩化物イオンを生成する可能性があ  ります。
  • 希釈水の水質・・・希釈水中に腐食に影響する成分(硫酸イオン、塩化物イオン等)が多量 に含まれていると上記(1)の反応が促進され孔食を生じやすくなります。
材種と変色しやすさ
クーラントの影響は、合金中のアルミニウム以外の金属に左右されることがわかっています。材質の比較では、一般的に次の傾向があります。
  変色生じやすい ←−−−−−−−−−−−−→ 変色生じにくい    
A2000 > A7000 > A5000 ≧ A3000,A6000 > A1000
  一般的な傾向として、重金属(Cu,Zn,Fe,Crなど)を多く含む材料ほど変色しやすい傾向があります。

<アルミニウム合金の種類>
1.A1000系・・・Alを99%以上、純アルミに近い 耐食性
2.A2000系・・・Cu(3〜5%)を含有する 高強度、航空機用
3.A3000系・・・Mn(1〜2%)を含有する 耐食性、建築用
4.A5000系・・・Mg(2〜5%)を含有する 耐食性、建築、車両
5.A6000系・・・Si,Cu,Mg,Crを微量 含有する 耐食性、リベット、ボルト
6.A7000系・・・Zn(5〜6%)含有する 高強度、航空機、スキー

マグネシウム合金について
マグネシウム合金は切削加工時の所要動力がアルミニウム合金の約1/3、鋼の約1/10と、被削性は非常によい材料です。ドライ切削も可能でありますが、切削時の熱による切屑の燃焼や粉塵火災の危険がありますので、湿式加工が主流となっています。以下にドライ、不水溶性切削油剤(以下、不水と略します)、水溶性切削油剤(以下、水切と略します)の利点と問題点について述べます。
  1. ドライ加工・・・切屑のリサイクルを考えると優れた方式です。しかし、切屑の発火や粉塵火災の危険性があります。また、粉塵対策も考慮しなければなりません。
  2. 不水・・・不水の使用には作業性(ミスト、ベタツキなど)、洗浄、切屑のリサイクルには不適などの問題があります。不水の適用では加工後の油分の分離、洗浄などを考慮して低粘度の油剤が選定されます。
  3. 水切・・・マグネシウムは水に溶けやすく、クーラントの硬度が上昇するのでスカムの生成や分離の問題を生じやすくなります。また、マグネシウムの溶解時に水素ガスを発生します。したがって、マグネシウムの溶出の少ない油剤を適用する必要があります。
切屑の後処理
マグネシウム合金の切屑は危険物第2類の可燃性固体に該当します。マグネシウムはいったん燃え出すと爆発的に燃焼しますので、火気には十分な注意が必要です。
水切で加工した切屑には水分が付着してますので、経時的にマグネシウムの溶解→水素ガスの発生が起きます。したがって、密閉容器ヘの保管は厳禁です。また、加工後は速やかに水分を分離、除去する方策を講ずる必要があります。

銅およびその合金について
純銅の切削ではせん断角が非常に小さいので切削抵抗が大きく、仕上げ面にむしれや盛り上がりを生じやすく、軟らかいのに削りにくい材料です。
銅合金は一般に被削性は良く、6/4黄銅に1〜3%鉛を加えた快削黄銅は被削性が非常によい材料です。銅および銅合金の切削には、硫黄系の極圧剤は適用できません。また、不水溶性切削油剤では油脂あるいはエステル系の潤滑成分も変色の原因になることがあります。水溶性切削油剤を用いる場合は、耐硬水性に優れた油剤を適用することが必要です。
また、黄銅では亜鉛への影響を考えpHの比較的低い油剤を適用した方がよいと思われます。

これら非鉄金属の被削性を鉄系材料と対比して表1に示します。
表中の被削性指数(machinability ratio:MR)は、工具寿命から見た材料の被削性を表す指数で、被削性比あるいは被削性率などとも言われます。硫黄快削鋼(SUM21)を標準(100)として表します。

表1被削性指数
材料   被削性指数(MR) 材料   被削性指数(MR)
快削鋼
 
 
炭素鋼
 
 
合金鋼
Cr
Cr-Mo
 
Ni-Cr-Mo
 
ステンレス鋼
オーステナイト
 
マルテンサイト
 
 
フェライト
SUM21
SUM22
SUM24L
SUM41
S10C
S30C
S45C
S50C
SCr420
SCr440
SCM421
SCM430
SCM445
SNCM220
SNCM240
SNCM439
SUS303
SUS304
SUS316
SUS403
SUS410
SUS420J
SUS420F
SUS405
SUS430
SUS430F
100
135
160
70
50
65
60
50
65
60
55
65
55
60
60
45
60
45
45
50
45
50
70
55
45
90
炭素工具鋼
高速度工具鋼
ダイス鋼
耐熱鋼
超耐熱合金
FC
FCD
FCM
青銅
黄銅

アルミニウム合金
マグネシウム合金
SK
SKH
SKD
SUH
50〜60
30〜40
40〜50
20〜50
10>〜40
50〜70 
40〜60
80〜120
40〜160
100〜200
60〜70
300〜2000
500〜2000

ユシロ化学工業株式会社 技術本部 商品技術部
水溶性第1グループ    主査 阿部 聡
被削性(machinability)
材料の削り易さを一言で被削性と呼びますが、生産性の観点から見た被削性とは、@工具寿命 A仕上げ面被削性(machinability) 材料の削り易さを一言で被削性と呼びますが、生産性の観点から見た被削性とは、@工具寿命 A仕上げ面 品位(精度、粗さ) B切削抵抗 C切屑処理性 等を総合して評価されるべきものであり、材料特性によって一義的に定まるものではありません。したがって、評価基準を明らかにする場合は、「工具寿命から見た被削性」とか「切屑処理性から見た被削性」という表現がなされます。
 
 

 
Copyright(c) 2001 Japan Lublicating Oil Society. All Rights Reserved.