細菌の抑制
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細菌の抑制

地球上には2千以上の細菌種があります。細菌は切削油に有害な影響を与えるので、水溶性切削油を使用する際には大きな心配の種です。細菌は化学的に切削油を変化させて潤滑剤と防錆添加剤を破壊し、切削油中に腐食性の酸と塩を放出します。
細菌の繁殖には水が必要です。細菌が液に入り込む経路として次に挙げるものが一般的です。


1.混合に使う水
2;機械の切削油タンク、樋などの中の「スラッジ」
3.部品
4.空気
5.作業者の手
大多数の細菌は繁殖する為に酸素を必要とし、20〜30分ごとに2つに分裂します。従って、最初に1匹の細菌がいたとして分裂が20分に1回起こり、どの細菌も死なないと仮定するとその後の細菌の数は次の表に示すように増えていきます。


 1時間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
 3時間・・・・・・・・・・・・・・・・・・512
 6時間・・・・・・・・・・・・・262,000
 9時間・・・・・・・・134,000,000
10時間・・・・・・・・268,000,000
11時間・・・・・・・・516,000,000
12時間・・・・・1,032,000,000


水溶性切削油の中で見いだされる細菌の内重要なものは以下に挙げる数種類です。
Escherichia coli  **
Klebsiella pneumoniae  **
Paracolabactrum species  **
Proteus vugaris  **
Pseudomonas aeruginosa  ***
Pseudomonas oleovorans  ***
salmonella typhosa  *
staphylococcus aureus  *


* 一部の製品中で少し繁殖。
** 多くの製品中で大量に繁殖。
*** ほとんどすべての製品中で大量に繁殖。


これらの細菌は好気性細菌として知られています。すなわち、繁殖のために空気(酸素)を好むということです。酸素がないとこれらの細菌は繁殖が止まるか非常に遅くなり、再び酸素が戻ってくると通常の速度で繁殖し始めます。一般的に言って、液の中にはいつでも2種類以上の細菌がいます。
最も厄介な好気性細菌はPseudomonas oleovoransとPseudomonas aeruginosaの2種です。Pseudomonas oleovoransは食物源としてオイルを好むので潤滑・油圧オイルがよく漏れる機械で急速に繁殖します。ですから、こうしたオイル漏れをできるかぎり少なくするべきです。それが不可能な場合は液の表面でオイルをすくい取るかあるいはオイルスキマー等を使用して除去するべきです。
Pseudomonas aeruginosaは水中の鉱物、水溶性切削油の原液、オイルなど、実際上どんなものでも食べて生きられます。Pseudomonas oleovoransとPseudomonas aeruginosaはどちらも好気性で水溶性切削油すべてが使用中はこれらを含んでいることを銘記してください。
これらはまた、既知の細菌すべての中で最も殺菌するのが難しい種類です。


別のタイプの細菌として酸素がないところで繁殖する細菌があり、嫌気性細菌あるいは硫酸還元菌として知られています。これらの細菌は好気性細菌に比べて繁殖かずっと遅く、分裂は4時間に1度ですが、繁殖すると極めて不愉快な結果を招くことがあります。これらの細菌は液が好気性細菌によって侵されるまでは繁殖しないのが普通です。実際、悪臭のする切削油に補充液を加えると、好気性細菌が繁殖して嫌気性細菌が活動できるようになるまでの数時間、切削油は新液の状態を保ちます。
水溶性切削油の中で繁殖する嫌気性細菌として主要なものはただ1種であり、Desulfovibbrio desufuricansと呼ばれています。非常に抵抗力か強く、腐った卵のような非常に強いにおい(硫化水素)を発生し、機械や工作物に暗色のひどいしみを付けます。実際、この細菌は鉄の存在下で最終的には液を黒色にしてしまいます。こうなると作業者は悪臭のために機械の近くに立っていることもできなくなります。


切削油の原液には潤滑剤及び防錆剤が添加されています。水と混合されるとそれらは潤滑や冷却機能を果たし、防錆被膜を残します。しかし、もし細菌が水の中で活動すると潤滑効果低下して切削工具や砥石の寿命が少しずつ短くなり、腐食や錆の問題が増えてきます。
細菌が繁殖するにつれて腐食性の酸や塩が生じます。細菌の繁殖が速いほど液を急速に侵しますので細菌の繁殖速度が重要です。一定時間内に繁殖する細菌の数が少なければ、繁殖による害もかなり少なくなります。
こうした問題を解決するにはどうすればよいでしょうか?重要な方法の一つは切削液のメーカーが製品に使用する原材料を良く選ぶことです。細菌の活動は非常に特異的であり、ある種の物質はその他の物質に比べてずっと好適な食物になります。ですから、賢明なメーカーは細菌の影響を受けにくいような原材料を選びます。


第2に、殺菌剤を慎重に使用することによって細菌による劣化を防止あるいは抑制することができます。しかし、使用にあたっては細心の注意を払う必要があります。新液で良好に機能する殺菌剤でも、水溶性切削油が汚染されていると様々な細菌の食物となってしまう場合もあります。


第3に、タンクのフラッシングを正しく行うことが大変重要であり、実際に細菌繁殖を効果的に抑制する最も効果的な方法です。使用済みの切削油を汲み出しただけの汚れたタンクに新液を入れても無意味です。これではタンク中の切り屑や機械の表面、あるいは配管の中にいる細菌に新しい食物を与えているだけです。機械の清掃が適切でないと切削油は約1ケ月の寿命しかありませんが、フラッシングの2〜3日前に適当な殺菌剤を添加して状態で通常に作業しながら滅菌し、その液を抜き徹底的に機械を清掃し、フラッシングを行い新鮮な液に取り替えればロングライフ化できます。

細菌はタンクの底に沈む傾向があります。ですから、細かい切り粉やその他の堆積物が沈むような装置だと細菌も沈みます。その場合、空気(酸素)から最も遠いところであるために嫌気性細菌の繁殖を促進します。その結果、大きな集中方式の細菌繁殖を抑制するのは単独の機械のタンクに比べて難しいのが普通です。しかし、切削油交換のたびに適正な清掃を施し、スラッジが堆積しないように良く濾過をし、タンクの底から切削油を流しだせば細菌の繁殖を抑制するのに役立ちます。さらに、集中方式においてトランプオイルと微粒子を除去するために遠心分離機の使用を強くお勧めします。集中給油方式ではこれらの汚染物質を連続的に除去することによって細菌の繁殖速度を大幅に下げることができます。
カビ汚染も問題になります。一般に、自然界では様々な細菌とカビの間に拮抗関係があります。人の感染症の細菌を殺すために抗生物質を過剰に用いると元々の感染に勝るとも劣らないようなカビの繁殖という問題が生じることがあることはよ〈知られています。
水中の鉱物分は細菌の食物になるのと同じようにカビの食物にもなります。従って水から鉱物分を除去することはカビ繁殖を抑制するのに役立ちます。機械やシステムがひどくカビに感染した場合は、切削油のタンクや配管を徹底的に清掃してカビを物理的に除去する必要があります。
興味深いことに、ケミカルタイプの(合成)加工油は工マルジョンタイプに比べてカビに侵されやすい傾向があります。逆に、エマルジョンタイプはケミカルタイプの加工油に比べて細菌に侵されやすいのです。

殺菌剤について・・・・効果のあるものでもすべてのタイプの切削油には使えないものが多く、またお互いに拮抗的なために同時には使えないものもよくあります。殺菌剤を使用するときは代理店の指導に正確に従ってください。量が多すぎたり少なすぎるのはいげません。少なすぎると微生物の繁殖を却って刺激することがありますし、多すぎると人間の健康に悪影響があるかも知れません。そして、これは大変重要な点ですが、切削油メーカー及び代理店の具体的な指示なしに切削油にケミカルを加えることは絶対に避けてください。